第4章
神さまの悩みと僕たちの生きる目的
そして
エンマ様の通信簿
神さまに悩みあると聞いてビックリするエンマくん。
そしてエンマくんは、私たちが人間として生きる本当の目的に気づきます
(声の出演 エンマくん:VOICEVOXずんだもん、神さま・早苗さん・金丸さん:VOCEPEAK)
音声はダウンロードもできますよ!
神さまは、本当に僕たちの感情の体験を楽しみにしているんですね。
本当は僕たちもそれが楽しみであの世に行くらしいんですけど、ネガティブ感情はどうしても避けたくなっちゃいますよね。
それにしても、金丸さんも早苗さんも聡さんも、みんな自分が輝いたかどうかがすごく気になるみたいでした。
「神さま、なんか、みんな輝いたかどうかをとても気にしていましたね。金丸さんなんて、すごく自慢していたし」
「フフ、そうよね。みんな気にするわね」
「どうしてなんですか?」
「そうねえ、輝いたかどうかは、あの世でどれくらい頑張ったかの、勲章のようなもんだからじゃない」
勲章ねえ、
「神さまも、みんなが輝いたかどうかは気になるんですよね?」
「ううん、私はどっちでもいいのよ。とにかく、みんながあの世で感情の体験をしてくれれば、それがうれしいんだから」
「でも神さま、早苗さんが輝いたってすごく喜んでいましたよ」
「あっ、そうね。気にはならないけど、やっぱり輝いてくれると嬉しいわ。うん、正直言って、とっても嬉しいわ」
「やっぱりそうなんですよね」
「そう、輝くって、オリンピックでメダルを取ったようなものだもん」
「オリンピックのメダルね」
「そう、応援している選手がメダルを取ってくれると、やっぱり嬉しいじゃない」
「そりゃあ嬉しいですよね」
「でも、オリンピックって、出場するだけですごいでしょ」
「すごいです」
「そんなすごいところに出場して、そこでみんなが競技に参加しているのよ。メダルはともかく、私は応援するのが楽しくって仕方がないの」
そう言うと、僕の方を見てフフっと小さく笑うと言いました。
「もちろん、せっかくオリンピック会場まで行ったのに、競技に参加しなかったら、残念だけどね」
「負けるのが怖くって、ということですね」
ネガティブ感情を何度も避けてしまった僕は頭を掻きました。
「そうそう」
「それは残念ですよね。負けてもいいから、競技には参加しないと、神さまも応援できなくて残念ですよね!」
「そう、本当は勇気も実力もあるんだから、せめて参加してほしいわよね」
「ハハ、オリンピックに例えるとわかりやすいですね。みんながメダルを取りたいという気持ちもわかります」
「そうね、メダルを目標にすると、つらいことも頑張れるってこともあるかもしれないし」
「そうですよ、それを目標にすると絶対に頑張れますよ」
「しかもあの世のメダルって、金銀銅だけじゃないもんね。上位三人だけじゃなくて、誰にだってチャンスはあるんだから。みんながメダル候補なんだから。早苗さんなんてとっても綺麗な輝きを持って帰ってきてくれたしね」
みんながメダル候補・・・。
「そうか! 輝きを増すって、愛を深めることなんですもんね」
「そう。あの世で愛を深めたその差の分が輝くの」
「愛が深いからメダルに近いわけではなく」
「そう」
「愛が足りないからメダルから遠いわけでもない」
「そう」
「そうかあ、じゃあ、本当に誰でもチャンスがあるんですね」
「そうそう」
「あの世に行った時点からどれくらい愛が深まったか、それだけってことですね」
「そうなのそうなの」
「僕、よく人と比較してしまって落ち込んでいたんですけど、それは全然関係なかったですね」
「関係ない関係ない」
「人と比較するのはよくなかったですね」
「比較してもいいのよ。それで落ち込んだら、それも体験だし、そのネガティブ感情が新たな行動と感情を生むかもしれないし」
「そうか! それも輝けるチャンスになるんだ!」
「そういうことそういうこと」
そうかあ、ホント、金丸さんも早苗さんも聡さんも、みんな気にしていたのは、輝きでしたもん。ポイントは愛なんだ! どれくらい愛が深まったか? そこのところが、みんなが一番気にしているところなんだ!
「神さまは、僕たちが悩みたくなってあの世に行くって言いましたけど」
「そうね」
「本当は輝きたいから、あの世に行くんじゃないんですか?」
「どっちもよ。悩みたいというのもあるし、輝きたいというのもあるのよ」
「どっちもなんですね。でも僕は、輝きたくてあの世に行く、という方がしっくり来るなあ」
「そう、しっくり来るのね、よかったよかった」
「はい、そのためだったらあの世に行きたいなあって思います」
「そう」
「ハイ」
「よおし! じゃあ今からレッツゴー!」神さまは腕を振り上げました。
「えっ? レッツゴー!ってあの世に? いやいやいやいや、それは勘弁してください。まだまだ幸せを満喫したいです。それからです、それからです」
「フフフフ」
もう、神さまったら、すぐ、からかうんだから。
「フフ、エンマくんて面白い!」
ほんとうにもう。
「ところで神さま?」
「なあに?」
「ここまで話を聞いていて今更ってことなんですが・・・」
「はいはい?」
「愛が深まるというのは、どういうことなんですか?」
「うん、そうね」
すると、神さまは「こんな感じ」と両手を大きく広げました。
「えっ?」
「この愛の世界に近づくって感じね」
「この神さまの世界に、ということですか?」
「そう、この世界では、すべてが愛おしくて、ありがたさに包まれるでしょ」
「ハイ」僕はこの世界に意識を向けました。するとまたすべてが愛おしく、言葉にできない大きなありがたさに包まれました。これが本当の幸せだ、そう確信できます。
「愛が深まる、というのはこの状態に少しでも近づく、という感じね。幸せ感が増えるということ」
つまり、と神さまは続けます。
「愛おしいとかありがたいなあって感じることが増えて、幸せだと思えることが増えたら、愛が深まったってことになるわね」
「なるほど」
「それまで、愛おしいとは感じなかったことに、ふとした瞬間突然、愛おしいという感情が湧いたこと、なかった?」
「そんなことあったかなあ。アッ、ありましたありました。小さな虫がただ移動しているだけなのに、動いている動いている、一生懸命動いている。愛おしいなあって。それまではそんなこと感じたことなかったのに」
「それって、愛が深まったってことね」
「そうなんだ」
「そしてあの世には、愛おしいとはとても思えないものがいっぱいあるでしょ」
「ありますねえ」
「その愛おしいとはとても思えないものを陰で操っているのが」
「え、陰で操っている?」
「そう」
なんだか、急に怖い話になってきました。
「陰で操っているラスボス、それがネガティブ感情よ」
「ああ、そういうことですね。ネガティブ感情がラスボス」
「そう、そのラスボスを愛おしく感じられるようになったら、もうピッカピカよ」
「いくら何でもネガティブ感情を愛おしく、なんて無理でしょう?」
「難しいけど、無理じゃないのよ。だってエンマくんだって、この愛で一杯の世界からだったら、自己嫌悪に陥っているエンマくん自身や矢沢君のことも愛おしく感じたでしょ?」
「そうかあ」
「もちろん、この世界から感じられるほどでなくてもいいの。少しでも近づければいいのよ」
なるほどね
「じゃあ、もしかして僕たち、そのラスボスと落とし前を付けるためにあの世に行っているんだったりして」
「フフ、エンマくん面白いこと言うわね。ホントそうかもね」
みんな自分が輝いたかどうかを気にしていました。
輝きが増す、というのは愛が深まったということです。
愛が深まるというのは、愛おしいものやありがたいと思えることが増えて、幸せ感が増える、ということのようです。
じゃあ、みんなが輝きたいというのは、幸せになりたい、ということなんですね。
なんだかんだと言って、やっぱりみんな幸せになりたいんだ。
みんなもともとここの世界の存在で、どんな状態が最高の幸せかを知っているから、そこに近づこうとしている、ということなんですね。
なるほどなるほど。納得納得。
ん? 納得? 待てよ待てよ・・・。
また最初の疑問に戻っちゃいますけど、僕たちはもともと愛そのものの存在です。すでに輝きで一杯なのに、どうして、わざわざ輝きを自分で落として、あの世に行ってまた輝こうとするんだろう?
なんか無駄なことをしているような。
神さまは無駄なことは何もないって言っていたけど。
退屈して悩みたくなってあの世に行く、ということだけど、どうして退屈するのだろう? どうして悩みたいと思うのだろう?
輝きたいという気持ちもオリンピックメダルの例えで分かった気はしました。
でも、どうして、メダルを取ったらうれしいんだろう?
神さまは感情にも全部意味があるって言っていたから、僕たちがそう思うことにも、ちゃんと意味があるんじゃないかなあ?
「神さま?」
「なあに?」
「どうして、僕たちはこの世界に退屈するんですか?」
「ずっと愛だらけだとやっぱり退屈するのよ」
「感情にも全部意味があるんですよね?」
「そうよ、全部ね」
「じゃあ、退屈するのも何か意味があるんじゃないかなあって」
「ああ、なるほど、そういうことね。そういえばそうねえ・・・どうしてなんでしょう?」
「どうして僕たちは悩みたくなるんですか?」
「うーん」
「どうして僕たちは輝くとうれしいんですか? 神さまもうれしいんですもんね。どうしてなんですか?」
「うーん」
神さまは考え込みました。
そして「わかんない」とあっけらかんと言いました。
「えっ? わかんないって」
僕はビックリです!
「神さまに分からないことなんてないんでしょ?」
「ううん、とんでもない。わからないことだらけよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ。わかっていることはほんの一部だけ。わかんないことは無限よ」
となぜか自慢そうに言いました。
「無限?」
「そう、悩みだってあるし」
「ええっ! 悩みもあるんですか? 神さまが? 愛そのものなのに?」
「そうよ」
「そうなんですか。 神さまって万能だと思っていました」
「人間からするとそう見えちゃうけど、ぜーんぜん。だって、上には上がいるから」
「上?」
「そう、エンマくんは私の一部でしょ? 本当は一部じゃなくて一体なんだけど、わかりにくいから一部って言い方をするね」
「ハイ」
「エンマくんは私の一部でしょ。私も上の神様の一部なのよ」
神さまは上の方を向きながら言います。
「そしてその神様も更に上の神様の一部だし」
「どこまで続くんですか?」
「わかんない」
えっ!
「じゃあ世の中の真実って?」
「そんなの誰にもわかんないわ」
ヒャー!!
真実が知りたいと思っていた僕には衝撃的です。
「エンマくん、好奇心旺盛で世の中の真実を知りたかったもんね」
「そうですよ。それなのに、神さまも誰もわからないだなんて・・・」
「上の神様が言っていたわ。真実は無限と一緒だって」
「無限と一緒?」
「そう、無限はいつだって、どこにだって存在するけど、理解することもできないんだよって」
「いつだって、どこにでも存在するけど、理解もできない・・・、ですか?」
「そう。だから真実はたとえ話にするしかないの」
「たとえ話・・・・」
「そう、私があの世を遊園地やドラマやオリンピックに例えたようにね」
「はあ」
「たとえ話だから一つじゃないの。いろいろな例えができて、それらは真実とは違うけど、真実でもあるのよ」
「ええ?」
「無限という言葉だって、たとえ話よ」
「うう?」
「エンマくん自身も無限なのよ。だからエンマくん自身の中にすでに真実はあるってわけ」
「わあ、待ってください、神さま。僕、全然理解できません」
「大丈夫大丈夫。私もぜんぜん理解できないんだから」
神さまはフフっと笑いました。
「だから要するに、これも例えて言うなら、自分自身の中に真実があるから、自分が主体になって、自分がしっくりくることを大切にしてねってこと」
「じゃあ、真実が知りたくて、本と読んだり誰かの話を聞いたりしたことは、無駄だったんですか?」
「全然無駄じゃないわ。それらをヒントに、自分なりにしっくりくることを見つけていったらいいの」
「でもそれじゃあ、やっぱり違っていたっていうことになりませんか?」
「違うと思ったらどんどん修正していったらいいのよ。修正する前も後も真実よ。真実は自分自身の中にすでに理解できない形で存在しているんだから」
全然理解できませんが、他に頼るんじゃなくて、自分なりにしっくりくることを大切にしたほうがいいよ、ということかな?
『真実は自分の中にある』か。かっこいいけどわかんないや。
それにしても、神さまも悩みがあるなんてビックリです。
「一体どんな悩みなんですか?」
「え! エンマくん聞いてくれるの?」
「あくまでも聞くだけですよ。聞いたからって何もできないし。できるわけないし」
「やったー、うれしいー!」
神さまは僕をぎゅっと抱きしめました。
「ちょっちょっと神さま、苦しいです」
「ごめんなさーい」
神さまは抱きしめた腕を離して言いました。
「実はね・・・、上の神様から言われているの」
「上の神様からって。な、なんか怖いですね」
「『もういい加減にしようね』って」
神さまはちょっと声色を作ってそう言いました。
「わー、その優しい言い方、怖い。な、何をいい加減にしろと?」
「『もういい加減、愛のレベルを上げようね』って」
「愛のレベルを上げるってこの世界の、ですか?」
「そう、この世界の愛のレベルを上げて、もっと輝いてねって」
僕はもっと怖いことかと思ったのでちょっと安心です。
それでも神さまは言います。
「本当にもう待ったなしにヤバいみたいなの、もっと輝きを増さないと。上の神様もその上の神様に言われているみたいで」
「そんなこと言っても、ここはもう輝きでいっぱいですよ」
と、僕は周りを見ながら言いました。
「ねえ、そう思うでしょ? でもまだまだなんだって」
「だってこれ以上の輝きなんて、想像できませんよ」
「ネッ、わたしも・・・・・」
・・・・・
「ねえ、エンマくん?」
何かを要求しそうな神さま。
「ハイ」 ちょっと構える僕。
「どうすればいい?」
やっぱりこう来ました。
「ちょっとちょっと神さま、僕にわかるわけないじゃないですか! さっき言ったでしょ。僕は何もできないって」
「だってエンマくん、面白いんだもん。だから、わかるかなあって」
「僕、面白くないですよ。それに面白いからわかるかなってどういう発想ですか」
神さまにわからないのに、僕にわかるわけがありません。
「ホントに神さまったら」
神さまの世界をもっと輝かせる方法なんて。そんな大それたことが、僕にわかるわけありません。
こんなに輝きで一杯なのに・・・。
これ以上の輝きなんて・・・。
これ以上の輝き・・・、 アッ、僕は思い出しました。
早苗さんが持って帰って来た光を見た神さまは、確かこう言っていました。
「あの世で増した輝きってとっても綺麗なの」
「その輝きがここの光と一緒になるんだもん。なんだか得した気分よ」と。
僕の頭の中で、ここでの経験と神さまの言葉が駆け巡りました。
えっ、じゃあ。
もしそうだとすると、いろいろなことがしっくりきます。
「神さま?」
「なあに?」
「僕・・・、わかったかもしれません」
「えっ、もしかして、この世界をもっと輝かせる方法?」
「神さまがあの世を作った理由です」
「私があの世を作った理由?」
「ハイ」
「退屈しのぎ、ということじゃなくて」
「じゃなくて」
「ええ?」
「目的がわかれば、輝かせる方法もわかるかもしれませんよ」
「スゴーイ、エンマくん! すごいスゴイ!」
神さまは完全に前のめりです。
「聞かせて聞かせて!」
「でも、あくまでもわかったかもですよ」
「いいわ。聞かせて聞かせて!」
もしかしたら、ぜんぜん違って神さまに笑われるかもしれません。
でも、しっくりくるのです。
僕は一呼吸おいてゆっくりと話し始めました。
「神さまはこの世界をもっと輝かせたい、と思っているんですよね。もしかしたら、それこそがあの世を作った目的じゃないかって思うんです」
「この世界をもっと輝かせる目的であの世を作ったってこと?」
「そう」
「でも私、そんなこと考えたこともないわよ」
と神さまは首を横に振ります。
「そう、神さまも僕たちも自覚はしていないけど、神さまも僕たちも輝くとうれしいのはそうじゃないかなって」
僕はここまで言うと、僕のしっくりが確信のように感じました。
僕は神さまにしっかり視線を向けて続けました。
「だって、輝きを増すことができるのは、あの世だけなんですよね」
「そう、輝きを増すことができるのは、あの世だけ」
「そして、神さまと僕たちは一体なんですよね」
「そう、私たちは一体」
「ということは、ですよ」
「うん」
「僕たちがあの世で輝きを増して、その輝きをこの世界に持って帰ってきたら、その分だけ、この世界の輝きが増す、ということになりませんか?」
「ああ、なるほど」
「だから、早苗さんがきれいな光を持って帰って来た時、神さまは得した気持ちになったんじゃないかなあって」
神さまは、アッと言うと、ふっと黙り込みました。
そして、視線を遠くの方に向けました。
「それに、神さまと僕たちは一体だから、神さまの悩みは僕たちの悩みでもあるんですよね」
だまってゆっくりと頷く神さま。
「その悩みを解決するために、神さまはあの世を作って、僕たちはあの世に行って輝きを増そうとしているんじゃないかな、と思うんです」
僕はそこまで言うと、神さまをまっすぐに見たまま反応を待ちました。
しばらく遠くのほうに視線を向けていた神さまは、ゆっくりと僕の方を向くと、少し甘えたように言いました。
「そのために、みんながわざわざ悩みの多いあの世で頑張ってくれているってこと?」
「そう、きっとそうですよ」
「わたしはただここで、みんなの頑張りを楽しんでいるだけなのに?」
「ただ楽しんでいるだけじゃないです。神さまはいつも、僕たちを応援してくれているじゃないですか。見守ってくれているじゃないですか。だから僕たちは頑張れるんです!」
またまた黙って何か思いを巡らせているように遠くに視線を移した神さま。
急に僕をまっすぐに見ると
「エンマくん!」
と満面の笑顔で
「君って大天才!!」と言いました。
「そう、そうよ。絶対にそう! あなた達は私のためにイヤな思いをいっぱいして頑張ってくれているんだわ!」
「神さまのためじゃないです。僕たちみんなのため。だって神さまと僕たちは一体なんですよね」
「そうね、私たちは一体だもんね」
神さまはそう言うと、目に涙がにじんできました
「なんだか・・・エンマくん・・・私の神様みたい」
「あれ? 神さま、泣いているんですか?」
「だってえ・・・」
神さまは僕を優しく抱きしめました。
「ありがとう、エンマくん!」
そして、上の方を向いて言いました。
「加奈ちゃんもエルちゃんも、金丸さんも早苗さんも、聡くんも、みんなみんなありがとう!」
ということで、
僕たちがあの世に行く本当の目的は、この神さまの世界の輝きをもっともっと輝かせることじゃないか、ということになりました。
『神さまの世界をもっと輝かせるために僕たちはあの世に行く』
そう考えると、僕がこの神さまの世界に来て、いろいろわかったことが全部しっくり来ます。
整理するとこんな感じです。
もちろん、これもたとえ話です。
僕たちは退屈して悩みたくなってあの世に行きます。
でも、退屈したからとか、悩みたい、というのはあの世に行くためのきっかけにすぎません。あの世に行く目的は他にあります。
その目的は、あの世でしか得られない、きれいな輝きをゲットすることです。
その輝きは、愛を深めることによって得られます。
愛おしいとは思えなかったものが、少しでも愛おしいと感じるようになれば、その感じるようになった分が、きれいな輝きとして誕生し、ゲットできるのです。
とても愛おしいと思えないものの代表格が、ネガティブ感情です。
僕たちはきれいな輝きをゲットするため、ネガティブ感情も体験します。
そうしてゲットした輝きを連れて、僕たちはこの世に戻り、この世界と一体になることによって、この世界は更にきれいに輝きを放つようになるのです。
これは、神さまを含めたみんなで行うプロジェクトです。
あの世では一人ひとりがみんな、いろいろな場面で、いろいろな役割を担います。
ネガティブ感情を体験し輝きをゲットする主役になったり、主役が活躍出来るようにエネルギーを送る応援者になったり、はたまた、主役にネガティブ感情を起こさせる悪役になったり、と。
「神さま、こんな感じでしょうか?」
「エンマくん、素晴らしいわ!」
「そう考えると、あの世にあるものって・・・。」
「そうね、すべて愛を深めるために存在するってことね」
ひどいことする人も、温かくしてくれる人も、悲しいことも楽しいことも、きれいな花も動物も、すべてすべて、愛を深めるために存在するってことのようです!
神さまと僕は顔を見合わせて、大きく大きく頷きました。
すると突然
「アーッ! そうだ!!」
神さまは大きな声を出しました。何かを思い出したようです。
「どうしたんですか?」
「神話よ!」
「神話?」
「そう、昔から伝わる神話があるの。思い出したわ。エンマくん、聞いてくれる?」
突然の展開でビックリですが、僕も神話には興味があります。
「もちろんです! 聞かせてください」
そして神さまは「むかしむかしね」と、話し始めました。
昔々、それはそれはかわいい神さまがいました。
神さまは、この世界のすべてが愛おしくって仕方がありませんでした。
神さまがちょっと散歩をすると、
「神さまご機嫌ですね。ほらほらパンジーが咲いたの。かわいいでしょ」
「神さまご機嫌だね。パンが今、丁度焼きあがったよ。食べて食べて!」
ご機嫌な声があちこちからかかります。
愛で一杯、輝きで一杯です。
ところがある日、ご機嫌とはちょっと違う声がかかりました。
「相変わらずご機嫌じゃな。それはいいんじゃが・・・」
上の神様からです。
上の神様によると、この世界はまだまだ輝きが足りないというではありませんか!
「もうそろそろ輝きを増して、次のステージに進んでほしいんじゃよ」
この世のすべてが愛おしいと思っている神さまは困惑顔です。
「光の中で埋もれている怪物がいる。本当は君もわかっているはずじゃが」
そう、本当は神さまもわかっていたのです。
この光の世界の中で、まだ愛されずにいる怪物たちがいることを。
その名は・・・ネガティノドン。
とても怖い風貌をしていて、攻撃的な怪物です。一頭どころじゃありません。いろいろな仲間がいて、それぞれ怖さも攻撃性も違うのです。
でも、この光に埋もれて姿を見ることはないので、「このままでいいか」って、神さまは思っていたのです。
しかし、上の神様に言われてしまいました。
困惑した神さまは、このことをみんなに話しました。
すると一人の勇者が言いました。
「ネガティノドンか。僕たちにはもう愛せない存在はないと思っていたのに。よし、僕がそのネガティノドンを何とかするよ!」
何とかすると言っても、見た目も怖いネガティノドン。いまだ愛されたことがなく、とても攻撃的な怪物です。
この怪物は出会うととにかくすぐに攻撃をしてきます。それにこちらが反応してしまうと更にスゴイ反撃をしてきます。
そんなネガティノドンの攻撃を抑え、愛すべき存在にするなんて、一体どうすればいいのか、皆目見当もつきません。
「とにかく、まずは会ってみるしかないな」
と勇者は言います。
この世界は波動が高く、ネガティノドンに出会うことができません。
そのため波動を落して、自ら愛の足りない状態にする必要があります。
「じゃあ神さま、ネガティノドンに会える世界を作ってくれないか?」
「わかったわ」
そうして神さまは波動を落した世界を作りました。
「よしっ! じゃあ行ってくる」
勇者は自ら波動を落し、その世界に行こうとしました。
すると、
「私も行く」「僕も行く」とたくさんの人が一緒に行きたいと言い出しました。
「みんな大丈夫?」と心配する神さまですが、
「どんな怪物か見て見たい!」「面白そう!」とみんな無邪気です。
そんなみんなに神さまは「これを持って行って」と、三つの物を渡しました。
ひとつは剣。怖いネガティノドンと正面から向き合うには勇気が必要です。この剣は自らが主体となって向き合う勇気を示すものです。『勇者の剣(つるぎ)』と言います。
もう一つは鏡。これはネガティノドンや自分の本心を冷静に見て、次の行動に結びつけるものです。『深呼吸の鏡』と言います。
そして最後に、ヒスイでできたおたまじゃくしのような形をしたネックレスを渡しました。
「これはお守りね。勾玉っていうの」
神さまは勾玉に手を添えると
「これは私とみんなのつながり、愛の象徴よ」と言いました。
あの世ではネガティノドンから攻撃を受けてエネルギーを消耗します。
このお守りを通して、「私がここからエネルギーを送るわ」ということです。
こうしてネガティノドンを愛すべき存在にするための、私たちの挑戦が始まったのです。
「こんな神話なの」
と真面目な表情で神さまは言いました。
「神さま?」
僕は神さまを見ました。
なあに? という表情で神さまはニコニコしました。
僕はひと呼吸おいてもう一度言いました。
「神さま?」
相変わらずニコニコ顔の神さまです。
「この話って、さっき僕たちが話したことにとても似ていると思うんですけど」
「そうお?」
「この神話の神さまって、もしかして・・・」
神さまはちょっと首を傾げると
「どうやら、私みたいね」
「たしか『それはそれはかわいい神さま』って言っていましたよ」
神さまは僕から視線を外らせて、
「仕方がないわよね、神話だから」と、うんうん頷きます。
「ネガティノドンってもしかして・・・・」
神さまはまた首を傾げると
「うーん、もしかしてネガティブ感情のこと? かな?」
と視線を外らせたまま言いました。
僕はそんな神さまを覗き込み、
「あの世を作った目的もそのままだし。神さま、この話、今作ったんじゃないですか?」
すると神さまはまっすぐ僕を見て
「とんでもない、本当に本当よ!」と、きっぱりと言いました。
そして
「みんな退屈したとか悩みたいとか言って、楽しそうにあの世に行くから、もともとの目的も忘れちゃっていたわ」と、首をすくめます。
僕は呆れて言いました。
「なんてこと。あの涙は一体何だったんですか?」
「てへっ」
「てへっ、じゃないですよ」
何事も愛嬌で乗り切ろうとする神さまです。
というわけで、神さまも神話を思い出したことですし、これであの世の目的も間違いなさそうですね。
僕たちはこの世界の輝きをもっと輝かせたいと願っています。
そのために僕たちは愛のレベルを下げてあの世に行くのです。
僕たち一人ひとりがそれぞれの愛のレベルだからこそ出会える感情に出会い、受け入れ、愛を深めていく。
あの世で愛を深めることによって輝きを増した光は、この世の光よりもきれいな輝きです。
そのきれいな光をこの神さまの世界に運ぶことによって、この世の輝きを、もっともっときれいに輝かせようとしているのです。
それが神さまと僕たちの目的だったのです。
その目的のために、みんなネガティブ感情を体験するのです。
ネガティブなことだけではなく、すべての感情の体験がその目的のためにあるのです。
あの世では、みんながいろいろな役割を果たします。
自分が愛を深めるだけではなく、他の人も愛を深められるように、自覚のないまま、いろいろな役割を果たしているのです。
誰かに優しくしたり、気を留めたり、腹を立てたり、イライラしたり・・・、
自分に生まれた感情は、自分が愛を深めるために存在するもので、自分によって相手に生まれる感情は、その人が愛を深めるために存在するのです。
すべては愛を深めるために存在するのです。
肝心なのは愛を深めて輝きを増すことです。どれくらい増したか、差だけが肝心なのです。
愛が深いかどうかではなくて、愛を深めていくことが大切なのです。
でも、愛を深めるって本当に簡単じゃないようです。
「そう、簡単じゃないの。早苗さんは少し輝いたけど、聡君は微妙だし、金丸さんなんて、フフッ、逆にくすんじゃったでしょ」
僕も、金丸さんの自信満々の勘違いを思い出して、少し笑ってしまいました。
「みんな輝いたりくすんだりで、全体ではなかなか変わらないのね。この二万六千年、ほとんど変化なしよ」
「え? あの神話の話って二万六千年も前の話ですか?」
「そう、だから忘れても仕方がないわよね」
と、神さまは自分を慰めるように言いました。
僕は肩をすくめました。
「ちなみにエンマくんも何度も人間やっているわよ」
「そうなんですか? 僕は輝きましたか?」
「うん、どうだろ?」
「ですよね。難しいんですね?」
「ネガティブ感情はみんな怖いし、みんないろいろな方法で避けちゃうし」
「そういうことですね」
神さまは「さあさあ」と、姿勢を正して、
「目的もはっきりしたし、どうすればみんなが愛を深めていけるか? 作戦を立てましょう!」
「えっ? 僕も考えるんですか?」
「もちろん、一緒に考えるの。エンマくん、輝かせる方法もわかるって言わなかったっけ?」
「言ってないです言ってないです。あくまでも、わかるかもって言っただけで何もわかりませんよ、何も」
僕は慌てて手を振りました。そしてそっと神さまを見ました。
神さまはニコニコして「エンマくん、期待しているわよ」なんて顔しています。
ああ神さま、あんな顔しているし。ダメダメ、僕、期待されちゃうとダメなんです。
期待に応えなきゃって思うと、途端にダメになっちゃうんです。
すると神さまが「大丈夫よ」ニコニコ顔で言いました。
「エンマくん、今、神さまの世界にいるのよ」
神さまの世界に・・・。
僕は軽く深呼吸をして、自分の感情に意識を向けました。
感情の中に、期待に応えなきゃというプレッシャーがありました。
僕には分からないんじゃないか、という不安もありました。
でもそれらがとても愛おしくって、僕は思わず微笑んでしまいました。
僕は言いました。
「わかりました。考えてみます」
すると、なんだか面白そうという感情が表に出てきました。
その感情に気づいた僕はうれしくなって神さまを見ました。
神さまはニコッとしました。
「わかりました、考えてみます」
僕はもう一度そう言って小さく頷きました。
「僕たちがあの世で愛を深める方法ですよね。どうすれば輝けるか?」
「そう」
「でも、本当に神さま、わからないんですか?」
「そう、わからないの」
「自分であの世を作ったのに」
「そうなのよ。私はただネガティブ感情に出会える世界を作っただけだから。みんなもどうすればいいかわからないまま、あの世に行ってくれているの」
「へえ、試行錯誤しているって感じですね」
「そういうことね」
「でも神さまはどんな時に輝くかはわかっているんですよね」
「そうね。はっきり言えるのは感情の体験よね」
「ハイ」
「ネガティブ感情をちゃんと認めて、感じて味わって、そしてポジティブ思考ができると輝くわ」
「でもその肝心のネガティブ感情を」
「みんな怖くて避けちゃう」
「そう言うことですね。うーん」
「どうすればいいかしらね?」
「うーん」と僕。
「うーん」と神さま。
「難しいですね」と僕。
「ネッ、難しいでしょ」と神さま。
・・・・・
「アッ、でも・・・そういえば」
僕は、この世界に戻ってからずっと思ってきた「この世にいつまでもいたい」という気持ちが、少し変化していることに気づきました。
「僕、今、ここにいるからかもしれないんですけど」
「うん」
「僕、今度またあの世に行く時は、もっと輝けそうな気がします」
「ほう」
「というのも、ここでいろいろなことが、わかったからなんです」
「ほうほう」
「僕がすぐに人と比較して自信を無くしてしまうのは愛のレベルを下げていたからだし」
「うん」
「だからこそ感じるネガティブ感情は愛を深めて輝きを増すチャンスだし」
「うんうん」
「この世界の輝きを増すために、僕はあの世に行ったわけで」
「はい」
「僕が輝きを増したら、神さまもみんな喜ぶし」
「はいはい」
「他の人が輝くことを応援できたら、僕も神さまもみんなうれしい」
「そうねそうね」
「そんなことがわかったから、今度はもっとちゃんとネガティブ感情に向き合えるような気がするんです」
「なるほど。この世のことやあの世に行く本来の目的がわかって、気持ちが変化した、ということね」
僕はうなずきました。
神さまは僕を見ました。
僕も神さまを見ました。
「と、言うことは?」と神さま。
二人は息を合わせるようにすると
「みんなに伝えればいいんだ」
と、同時に言いました。
「そうねそうね。私もみんなも、本来の目的を忘れちゃっているから、まずはそれを伝える。それとっても大事ね」
「そうですよね」
「そうそう、大事大事。よし、これからみんながあの世に行く時、私、伝えるわ。そうしましょう」
「ハイ。なんかワクワクしますね」
アッ、でも・・・。
「どうしたの?」
「やっぱりダメですよ。だって、この世で伝えてもあの世に行くと忘れちゃうから」
「大丈夫大丈夫。全員じゃなくても思い出す人は必ずいるから。全員が輝く必要はないんだもん。みんなを合わせて少しでも輝きが増してくれればそれでいいんだから」
それに、と神さまは続けて言いました。
「聡くんなんて忘れないと思うわ。あんなに悔しがってすぐに行っちゃったから」
そうですよね、聡さんだったら・・・、アッ、そうだ!
「じゃあ、ハイハイハイ!」 と僕は手を挙げました。
「絶好調ね、エンマくん。ハイ、どうぞ」
「みんな、あの世から戻ったとき、輝きがどうなったか、自分ではよくわからないみたいでしたね」
「そうね、勘違いが多いわ。金丸さんも早苗さんもそうだもん」
「じゃあ、今度からちゃんとした客観的にわかるようなものをお渡ししませんか?」
「なるほどね。あの世でどれくらい輝きが増したか、それがわかる成績表のようなものね」
「そうですそうです」
「面白い、面白いわ。金丸さんなんか、それを見ると絶対悔しがって、聡さんのようにすぐにあの世に行っちゃうわね。今度は愛のレベルを下げて」
「きっとそうですよね。聡さんのようにすぐにあの世に行く人が増えれば、目的も悔しさも忘れない人がもっと多くなりますよね」
「うん、間違いない。素晴らしいアイディア! エンマくん、やっぱり君って天才よ」
僕は照れました。
「それより、どうやって輝きの差がわかるようにするかですね」
「アッ、いいものがあるわ」
神さまは何やらごそごそすると
「これ使ってみない?」
と、木でできた長さが四十センチくらいの細長い板を取り出しました。
「何ですか? それ」
「シャクっていうの」
神さまはそのシャクの下の方を、両手で添えるように持つと
「こうやって持つのよ」と胸のところで構えました。
そして、
「エンマくん。『僕ってダメダメ―』って言ってみて」
「ええ、なんでまた?」
「いいからいいから」
しょうがないので言ってみました。
「僕って ダメダメ」
「もっと感情込めて言ってみて」
「僕ってダメダメー」
神さまがそれに合わせて、シャクを前後にひょいっと揺らすと、
パシャ!
「いいわねいいわね」
神さまは楽しそうです。
「じゃあ次に『僕って天才』って言ってみて」
「僕、天才じゃないですけど」
「いいからいいから」
「僕って天才」
「もっと感情込めて!」
「僕って天才!!」
「おー、いいわね」
シャクをひょいと揺らして、パシャ!
「よし、できた」
神さまは、今度はシャクをひょいひょいと二回前後に振りました。
すると何やら紙切れが出てくるではありませんか。
「フフ、出てきた出てきた」
神さまは本当に楽しそうです。
出てきた紙を抜き取って、神さまはまたフフと小さく笑うと、「見てみて!」と、僕の方に差し出しました。
その紙切れには左側に「僕ダメダメ―」と言ったときの写真、右側に「僕って天才」と言ったときの写真が写っています。
そしてそれぞれの下に数字が書いてあって、更にその下に二つの数字の差とコメントが載っています。『おめでとう、エンマくん。君の点数は一点です』
「ええ? 何ですか? これ」
「それぞれの輝きが数字で表されているの。そしてその下に、その差が点数となって表示されるのよ」
「こんなものがあるんですか! すごいじゃないですか!」
「これを使って、あの世に行く前とこの世に帰ったときの写真を撮るの」
「そうすれば、あの世でどれくらい輝きを増せたか、逆に減ったか。はっきりわかりますね」
「今やったのはテストだから、コメントは短かったけど、設定で、『残念! ネガティブ感情を避けたのはこの時』『すごいすごい、愛の足りない自分を受け入れたのはこの時!』とかいったことを具体的にコメントすることができるわ」
「じゃあ、ハイハイハイ」と僕は手を挙げました。
「ハイ、絶好調エンマくん、どうぞ」
「どれくらい応援したか? というのも入れませんか?」
「愛のエネルギーをどれくらい送ったか? ということね」
「そうですそうです」
僕はエルさんのことが頭をよぎったのです。
「応援してくれる人がいるからこそ輝けるわけだし、とても大切な役割だから」
「うん、そうね。それも入れましょう」
「悪役は入れなくてもいいかなあ。大切な役割であることは間違いないけど」
「それも入れましょう。自分で気づかずに悪役をしていたことにも、いっぱい気づいて面白そう」神さまはフフと笑いました。
なんかとても面白くなってきました。
「すごい! これを通信簿として渡せばいいんですね」
「そう。こんな通信簿もらったら、すぐにもう一度あの世に行きたくなるわね」
「きっとそうです」
僕たちはワクワクしてうんうん頷きあいました。
「そうだ! この作戦『神さまとエンマ様の輝きマシマシ大作戦』としましょう」
「それはダサいからやめましょう」
「そうお? いいと思うんだけどなあ」
神さまは意外そうにそう言うと、
「とにかくハイ! これ!」と、シャクを僕に差し出しました。
ついつい受け取ってしまった僕。
「えっ、僕が使うんですか?」
「そう、エンマくんが撮って、エンマくんがみんなに渡すの」
「神さまがすればいいじゃないですか?」
「私にはこのシャクは似合わないわ」
「僕だったら似合う?」
「うん、ピッタリ!」
こんな大切な役目なのに。
なんだか神さまに押し付けられたみたい。
「そうだ、この作戦『エンマ様の通信簿』にしましょう」
「僕の名前を使うのはやめましょうよ」
「いや、これは譲れない」と、きっぱり。
途方に暮れる僕。
「やっぱりエンマくんは特別な役割があったのね。私の思った通り」
神さまはうんうん頷いています。
何だかとても嬉しくて嬉しくて仕方がないって感じです。
すると突然、キラキラ〜と周りがきらめきました。
「聞いたわよー」
現れたのはなんと早苗さんです。
「まだ残っていたの?」と、神さま。
「そう、だって私のすぐ後に聡さん帰って来たじゃない。私もファンだったんで、ちょっと残っていたのよ。そうしたら、なになにい、神さまとエンマさん、なんか面白い話をしているじゃない」
神さまはこっそり僕を見て、小さく微笑みました。
早苗さんは僕に、
「エンマさん、私にその通信簿、頂戴!」と、両手を出しました。
「これはまだ」これからのことだからと言おうとすると、
神さまは僕に、
「大丈夫よ。だってここは神さまの世界よ。少しくらいの時間なんて何とかなるわ」
そう言うと、
「エンマくん、そのシャクを三回振ってみて」
僕はまさかと思いながら三回振ってみました。
すると紙切れが出てきました。
なんと早苗さんの通信簿です。
でてきた通信簿をビックリしてみる僕。
ちゃんと行く前と今の写真が載っています。そしてコメントも。
「エンマさん、早く早く」と、早苗さんは両手を上下に振って催促します。
僕は慌てて通信簿を手渡しました。
受け取った早苗さんは、オーとかアーとかエーとか言いながら面白そうに見ています。
「オー、神さまの言った通り、私、結構輝いたんじゃない。アー、あの時が良かったのね。アー、やっぱりずーっと親や旦那のせいにしていたからね。えっ、やだー、自分で自分のエネルギー奪っているじゃない。じゃあ、そこのところもうちょっと頑張ればもっともっと輝けたってことじゃないの」
と一人でぶつぶつ言っています。
そして、「惜しいなあ。悔しいなあ」と言うと神さまの方を向いて、
「神さま。私、今からあの世に行ってくる」
「え? 休まなくていいの?」
「大丈夫。神さまとエンマさんの話を聞いていると、なんだかエネルギーが増えたみたいよ」
早苗さんはそう言うと、神さまと僕を交互に見て、
「それに私って、この世界を輝かそうとしているんでしょ? すごいじゃない。私、もっともっと輝いてみせるわ。そして上の神様を驚かせてやりましょうよ」
神さまと僕は顔を見合わせ、大きく頷きました。
「今回の愛のレベルは、うん、これで行きます!」
と、かなりレベルを落としました。
「フフ、さすが早苗さんね」と、神さま。
「それじゃあ、行ってくるね」
と、その時、
「ちょっと待ってくれー!」と、きらめきと共に現れたのは、金丸さんです。
「えっ、金丸さんもまだ残っていたの?」と、驚く神さま。
「そりゃあ、早苗がすぐにもどってきたんだぞ。気になるじゃないか」
「金丸社長と早苗さんって知り合いなんですか?」と、僕は聞きました。
「オレたち夫婦だったんだよ。なっ、早苗」
「そう、一応ね」
早苗さんはそう言うと僕に向かって
「私、エンマさんにも会ったことあるのよ」
と思い出すように話しました。
「他の新入社員と一緒に我が家に食事に来てくれたわ。その時、エンマさん、私の作ったコロッケを『おいしい、おいしい』って。とてもうれしかったの」
僕は思い出しました。魅力的な人だなと思ったことも。そしてコロッケがとってもおいしかったことも。
「この人には一度もおいしいって言われたことがなかったから、とてもうれしかったのよ」
金丸さんは頭を掻いて
「早苗、悪かった。オレ、君のエネルギーを奪いっぱなしだったな」
「ううん、私の方こそ、私が不快な思いをすることをあなたのせいにしただけだったもん。愛を深めることをしなかったのよね。せっかく悪役をやってくれたのにね」
金丸さんはまた頭を掻きました。
「それよりどうしたの? いきなり現れて」
「オレも神さまとエンマくんの話を聞いたんだ。相当反省したよ。そうしたら早苗がすぐにあの世に行くって言うじゃないか。とてもじっとしていられなくなったんだ」
「じゃあ、あなたもあの世に行くってこと?」
「そう! 愛のレベルは、フフフ・・・、こうだ!!」
金丸さんは勢いよくレベルをギュッと・・・、と思ったのですが・・・
「えっ?」と、早苗さん
「えっ!?」と、神さまと僕。
僕たちは目を丸くしました。
「あなた・・・、それ」と、早苗さん。
神さまも「金丸さんのことだから・・・、てっきり・・・・」
そうなんです。勢いよく下げた! と思ったのに、レベルはそんなに下がっていません。
金丸さんは頭を掻きながら、「下げるのが怖くって」と言って、何ともいえない情けない表情をしました。
プッ、早苗さんは吹き出しました。
「金丸さん、面白すぎ!」
神さまも、そして僕も笑い出しました。
金丸さんもそんな自分が面白くなったようで、僕たち四人、お腹を抱えて笑い出しました。
金丸さんは笑いが収まると、
「オレって、まだ経験が足りなくて感性が低いからな。とにかく今回オレは・・・」
そう言うと、早苗さんの方を向きました。
「全力で早苗を応援したいんだ」
それを聞いた早苗さん、笑いが収まり切れない顔を金丸さんに向けると、
「もう・・・、あなたったら・・・」 早苗さんの笑いで出た涙は感激の涙に変わったようです。
「早苗・・・」金丸さんは、改めて早苗さんに向き直りました。
「オレ、あの世で君に出会えたら、またプロポーズしちゃうけど、いいかい?」
早苗さんは、嬉しそうに頷くと、
「それを受けるかどうかは、その時になってみないとわからないわよ」
といたずらっぽく言いました。
金丸さんは微笑むと、
「ハハハそりゃあそうだよな。しっかりと感性を磨いて、早苗に相応しい男になってみせるさ」
「フフ、楽しみ。私もあなたにちゃんとプロポーズしてもらえるような女性になるわ」
金丸さんと早苗さんは微笑み合いました。
そんな二人のやり取りを見ていた神さまと僕も、大きく大きく頷き合いました。
「アッ、あなた。あなたも前回の通信簿もらったら?」
「いや、やめとくよ。オレがくすんだ理由はよくわかっているから。それよりエンマくん!」
「は、はい」
「今の写真を撮ってくれないか?」
「そうですね。撮りましょう!」
僕はシャクの下の端を両手で持って胸のところまで持ち上げると、
「神さま、持ち方はこれでいいんですよね?」
「バッチリ、さすがエンマくん」
「じゃあ、いきますよ。早苗さんも一緒に入ってください!」
神さまが僕を見ました。
「アッ、神さまも」
「えー、私もいいの?」
神さまはそう言いながら嬉しそうにアングルの中に入りました。
「じゃあ、いきますよ!」
シャクをひょいっと揺らして、パシャ!
そして二人は輝きとともに見えなくなりました。
二人を見送った僕は金丸さんと早苗さんの人生がとっても楽しみになりました。
僕の応援したい人がさらに二人増えました。
僕はゆっくりと神さまを見ました。
神さまも満足そうに微笑みながら僕を見ました。
すると、神さま。自分の胸を片手でポンポンとすると
「天才」と、口を動かしました。
僕も負けていられません。
胸をポンポンポンとして
「天才」と、口を動かしました。
こうして僕は神さまのお手伝いをすることになったのです。
僕の役目はみんなに通信簿をお渡しすること。
あの世に行く前と戻ってきた時の輝きの差がわかる通信簿です。
輝きの差だけじゃなくて、どれくらい愛のエネルギーを送ったか、どんな悪役をやったか、ということも、わかるものです。
僕が持っているシャクはカメラ機能がついた通信簿を発行するものなんですね。
こんな展開になるとはビックリです。
大切な大切な役目をもらっちゃって、本当に僕でよかったのか不安はあります。
でも、神さまは僕を信じてくださったんですよね。
だから僕も、僕を信じて、この大切な役目をやらせていただきます。
僕たちは今、「この世界をもっともっと輝かせる!」という大きなプロジェクトの真っ只中にいるのです。
このプロジェクトは、みんなで行うプロジェクトです。
それぞれがいろいろな役割を果たしながら行われているのです。
チャレンジャーになったり、応援者になったり、悪役になったり・・・。
この世界の輝きを増すため、僕も頑張ります!!
僕は神さまを見ました。そして、満足そうにしている神さまに言いました。
「このこと、加奈さんやエルさんや聡さんにも伝えたいです」
「そうね」
「何か伝える方法はありませんか?」
「どうかしら?」
「何とかして伝えたいです」
「フフ、わかったわ。時期が来たらね」
第4章の世界観と眺めるヒント
第4章の世界観はこんな感じでした
■ 私たちは、神さまの世界の輝きをもっと増そうとしている
■ そのために、この世で愛を深めようとしている
■ これは、みんなで協力して行っているプロジェクト
■ 肝心なのは愛をどれくらい深められたか? 差だけ
■ 愛が深いことがいいことではなく、どれくらい深められたか、差だけ
■ その差の分が新たな輝きとなって、神さまの世界の輝きに貢献できる
■ この世は、愛を深めるために存在する
■ この世の存在するものは、すべては愛を深めるため
■ イヤな出来事もイヤなやつも、全部愛を深めるため
■ 愛を深める一番のポイントがネガティブ感情
■ 一人ひとり違うからこそ、ぶつかり合ってイヤな体験もできる
■ イヤな体験もできるから、愛を深められる
■ 私たちは一体だから、誰が愛を深めてもいい
■ 自分が深めてもいいし、人が深めることを応援してもいい
■ だから、主役も脇役も悪役も、みんな大切
■ 真実は無限と一緒。誰にもわからない
■ 自分がしっくりいくことを”真実”だと思ってもいい
「私たちは何のために生きているのか?」
エンマ様的に言うとそれは
「愛を深めるために生きている」
「愛が深いことがいいことじゃない。あくまでもどれくらい深められたか? 肝心なのはその差だけ」
ということになります。
なぜ愛を深めようとしているかというと、
「みんなで協力して、神さまの世界をもっともっと愛で溢れさせるため」
となります。
この世界観で眺めるというのは、例えば、
★誰かと比べて劣等感を感じて、私ってダメね、と思ったとき
「肝心なのは愛を深めることということね? 差だけってこと。私は私だから価値があるってことね」 とか
「ハハ、また人と比べて落ち込んでるわ、私って。私、チャレンジャーなんだからしょうがないわよね。この感情をちゃんと覚えておこう。 それが愛につながるってことだもんね。そうでしょ、エンマくん」
★誰かにイヤな思いにさせられた時
「彼は悪役を演じたってことね。私はこの感情に向き合って何か前向きのことを考えれば愛が深まって輝けるってことね」
★周りを見渡して
「みんなみんな、同じプロジェクトのために協力し合っている仲間ってことか。なんかすごいなあ。アッ、あくまでもエンマ様的に言うと、だけどね」
と、こんな感じです。
もう耳タコ状態でしょうが、大事なことなので、繰り返します。
とにかく眺め方は自由です。「これで合っているかなあ」なんて心配することは全くありません。
ここで紹介した世界観や眺め方は、ただただ参考にしてもらえればいいだけです。
あなたがしっくりいくものを見つけ出すような気持で、楽しみながら、ゆる~い感じで眺めてみてください。